大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和50年(ワ)497号 判決

主文

一  被告らは、各自、別紙物件目録(一)及び(二)記載の各不動産に対し、それぞれ相続により取得した各持分権につき、原告の昭和三三年一月一日時効取得を原因とする移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立

原告

一  主文第一項と同旨。

主文第一項と選択的に

一  被告らは、各自、別紙物件目録(一)記載の各土地につき、熊本県下益城郡豊野村農業委員会に対し、譲渡人を被告ら、譲受人を原告とする農地法三条一項による所有権移転許可申請手続をせよ。

二  被告らは、各自、右各土地につき前項の許可がなされたことを条件として、原告に対し、右許可の日贈与を原因として所有権持分移転登記手続をせよ。

三  被告らは、各自、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の各物件につき、原告の昭和三三年一月一日贈与を原因として所有権移転登記手続をせよ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

被告中嶋和子を除くその余の被告ら

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

請求原因

一1  別紙物件目録(一)及び(二)記載の各不動産(以下、本件各不動産という。)は、訴外亡井澤寿一(訴外亡寿一という。)の所有であつた。

2  原告は、昭和三三年一月一日、訴外亡寿一から本件各不動産の贈与を受けた。

3  訴外亡寿一は、昭和四〇年三月一日死亡し、被告らは同人の子であり同人を相続した。

4  よつて、原告は、被告らに対し、本来訴外亡寿一がなすべき、別紙物件目録(一)記載の各農地については、農地法三条による所有権移転許可申請手続並びに同許可ありたる場合の所有権移転登記手続を求めるものである。

二  原告は、また、次に述べるように、時効によつても本件各物件の所有権を取得しているので、右贈与による主張と選択的に主張する。

1  原告は、前記のとおり、昭和三三年一月一日訴外亡寿一から本件各不動産の贈与を受け、同日よりその占有を開始したのであるが、右のような事情から、本件各不動産を最初占有するとき、本件各不動産が自己の物であるという認識につき過失はなかつたものである。

従つて、原告は、所有の意思をもつて善意、平穏且つ公然(民法一八六条、推定されるものである。)と占有し、しかも無過失に占有を開始したのであるから、昭和三三年一月一日から一〇年を経過した昭和四三年一月一日本件各不動産の所有権を時効により取得した。

2  仮りに、右一〇年の時効取得の主張が理由ないとしても、原告は、昭和三三年一月一日から所有の意思をもつて平穏且つ公然と占有したのであるから、右期日から二〇年を経過した昭和五三年一月一日本件各不動産の所有権を時効により取得した。

3  本件各不動産は、元訴外亡寿一の所有であり、現在同訴外人名義に所有権移転登記がなされているのであるが、同訴外人は昭和四〇年三月一日死亡し、その子である原告及び被告らがその相続分に応じて本件各不動産を相続した。

4  よつて、原告は、被告らに対し、本件各不動産に対する被告らの各持分につき、前記1、2の時効取得を原因としてその移転登記手続を求める。

請求原因に対する認否並びに抗弁(被告中嶋和子を除くその余の被告ら)

(認否)

一  請求原因一、1は認める。

二  請求原因一、2は否認する。

三  請求原因一、3の事実中、被告中嶋和子が訴外亡寿一の子であるという事実は否認する、その余の事実は認める。同被告は、原告の子である。

四  請求原因二、1、2の事実はすべて否認する。

五  請求原因二、3の事実中、被告中嶋和子が訴外亡寿一の子であり、同訴外人を相続したとの点は否認する、その余の事実は認める。

(抗弁)

一  贈与の主張に対する抗弁

1  仮りに、原告と訴外亡寿一間に本件各不動産の贈与契約がなされたとしても、それは書面によらない贈与である。

2  訴外亡寿一は、右贈与を取消し得るものであるところ(民法五五〇条本文)、同訴外人は昭和四〇年三月一日死亡した。

被告らは、同訴外人の子であり、右取消権を相続により取得した。

3  よつて、被告らは、昭和五三年一月一九日付準備書面でもつて、原告と訴外亡寿一間の本件各動産に関する贈与契約は取消す旨の意思表示をなし、同書面は昭和五四年一一月二二日、本件第一四回口頭弁論期日に陳述され、遅くとも右期日迄には右意思表示は原告に到達した。

二  時効取得の主張に対する抗弁

被告らは、昭和四八年一一月二一日熊本家庭裁判所に対し、本件各不動産に関し遺産分割調停の申立をなし、現在同裁判所昭和四八年(家イ)第七〇二号事件として係属中である。よつて、右期日をもつて、原告の時効による本件各動産の取得は中断されているものである。

抗弁事実に対する認否並びに再抗弁

(認否)

一  抗弁一、1の事実中、書面によらない贈与である事実は認める。

二  同一、2の事実中、訴外亡寿一が昭和四〇年三月一日死亡したこと、被告らが同訴外人の子であること、右事実は認めるがその余の事実は否認する。

三  同一、3の事実は認める。

四  抗弁二の事実中、取得時効が中断されたという点を除きその余の事実は認める。

(再抗弁)

一  原告は、本件各不動産の贈与を受けた昭和三三年一月一日その全部につき引渡しの履行を受けたので、被告らは取消すことは出来ないものである。

二  被告西田澄子は、訴外亡寿一死亡後の昭和四四年一二月頃、原告に対し、同訴外人の生存中同訴外人に金を貸していたから返せとせまり、その元利金の返済を強く求め、原告から返済を受けながら今になつて贈与を取り消すのは信義に反し許されないものである。

再抗弁事実に対する認否

再抗弁事実は否認する。

第三  証拠(省略)

第四  被告中嶋和子は、適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

よつて、請求原因事実を自白したものとみなす。

別紙

物件目録(一)

〈省略〉

物件目録(二)

〈省略〉

同所字中ノ丸二五三九番地一

家屋番号第一九八番

木造瓦葺二階建居宅 床面積一五二・〇六平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例